2009年9月4日金曜日

川上未映子『ヘヴン』

『群像』を買い逃したため 単行本を予約し初版で読了することが叶いました


主人公の"僕"と"コジマ"という女性の2人のか弱さが強い意味を持つため

ややもすると 危うく善悪という二分の罠に陥りそうになります

しかしながら そこに"百瀬"という強い無意味を持つ人物が登場することにより

"僕"と"コジマ"=意味の強度 と "百瀬"=無意味の強度が融け合い

昇華した先に救いの活路が見出せた気がします


学校における不条理ないじめがテーマとして扱われているのは

恐らく病理や狂気が蔓延する現代社会総体のアナロジーだと思われますが

重要なのはつまり ちょうどいじめる側といじめられる側の住む世界が異なるのと同様

世界に意味を求めるのと無意味とやり過ごすのは世界の切り取り方の違いであり

どちらが善でどちらが悪だとラベルを貼ることがすべてではないという

投げかけにあると思います


読んでいて幾度となく辛くなりました

それでも苦痛を伴いながらそれを"受け入れて"

息つく間もなく最後まで一気に読み進めた先に辿り着いた風景は

美しいものでした


ナチュラルな文体への変化とラストシーンは

恐らく兼ねてからの読者の評価を大きく分かつものです

しかしながら 

文体は変われど著者が持つ感受性の強さを窺わせる描写は瑞々さを増し

僕個人としては違和感がないどころか 人としての喜びを実感した読了後が幸せでした


優しい方なのだと思います