2008年3月27日木曜日

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」

ノラ・ジョーンズが再びブルーベリーパイを食べるまで

かかった日数 300日。

ブルーベリーパイの味には

たどりつくまで要した300日の旅の行程が

凝縮して込められていたのだろう。


同じウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」は

恋愛に積極的なフェイ・ウォンが

恋心を寄せるパイロットの部屋を自分色に染め

最終的には彼を追い越して

キャビンアテンダントになってカリフォルニアへと

ジェット機で飛び去ってしまう

スピード感があり爽快で直球ストレートな

ラブストーリーであったのに対し

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は

恋愛の感情を素直に表に出せないノラ・ジョーンズが

売れ残りのブルーベリーパイを食べさせてくれる

カフェ店員のジュード・ロウに心惹かれながらも

失恋の心の傷を抱えたまま

広大な土地のアメリカを転々としながら

滞在先で出会う個性あふれる人物たちの

まっすぐな感情や劇的なエピソードを目の当たりにし

再びカフェの門をくぐるまで300日もの日数を要した

ゆったりとした時間の流れの中で回り道を繰り返す

スローカーブ型のラブストーリーである。


劇的なエピソードは随所に盛り込まれながらも

ラブストーリーとしてこの映画を視た場合

至って地味な物語だ。

上っ面だけ取れば

再会して再びブルーベリーパイを食べるまで

300日もかかる アホちゃう? という話になる。

だがそのような視方はこの映画の本質ではなく

逆に300日かかることの重要性が

会話の随所から垣間見れる

登場人物の心理描写によって語られている

実に味わい深い魅力に満ちた話である。


300日の旅によって

ノラ・ジョーンズが恋愛に積極的な女性に

変身するわけではない。

300日で得たものは

居眠りする唇に付けられたクリームだけ。

だがそのほのかな変わり具合が

エンディングに流れる

ノラ・ジョーンズの歌声と相まって

観る者を心地良くさせ 

じわじわと余韻を引く素敵な作品である。