2008年8月12日火曜日

SUMMER SONIC OSAKA 08 私的五選

Photo_2
今年のサマソニ(大阪)で
個人的満足度が高かった5組について書きます。

<其ノ一>THESE NEW PURITANS
These_new_puritans1
These_new_puritans2
これぞUK!といった感じで完璧なステージでした。
最近の新人UK勢は明るい感じのバンドが多くて
暗さが足りない!とずっと不満を抱いてましたが
彼らがその不満を見事に払拭してくれました。

彼らをケーキに例えると
・バウハウス、コクトーツインズなど4ADレーベル系ゴシック
・ジョイディヴィジョン→ニューオーダー
・ジーザス&メリーチェイン→マイブラッディバレンタイン
とミルフィーユ状の三層構造を成していて
所々マッシヴアタックの粉が散りばめられている
そんな感じではないでしょうか。

だからといって”先祖がえり”していなくて
斬新な音でちゃんと個性を発揮しています。

冒頭いきなりの「colours」「swords of truth」も
相当ヤバかったのですが
(「swords of truth」のイントロは鳥肌立ちました)
中盤の「C.16th±」が煽るようなボーカルに
時折ノイジーなギターがガーッと入ってきて
素晴らしすぎ。
たった2分の曲ですが充実した内容でした。
そして暗い。実に暗い。

後述するSANTOGOLDを観終わったとき
彼らもSANTOGOLDを観ていてバッタリ遭遇。
興奮して舞い上がりながらも
勇気をふりしぼり(カタコトの英語で)
話しかけました。

僕「握手してくれませんか?」
ピュ「(笑顔で)OK!」
僕「今日のステージ最高でした!」
ピュ「THANK YOU!」
ピュ「(僕のTシャツを指差し)THE KILLS!」
The_kills_t
僕「そうです!」
僕「ありがとうございます!」

Dior Hommeのショー・サントラを担当しただけでなく
モデルとしてもステージに立っただけあって
ルックスとスタイルの良さは同性から見ても
ドキッとさせられました。
唯一の女性ソフィーも色白美人でした。

時間にすれば数分の出来事ですが
興奮しながらも時間が止まったような
夢のようなひとときでした。

ちょっと暗めのUK好きで
EDITORSあたりに見事に期待を裏切られた方に
超おすすめです。
同じレーベル(Domino)には
大スターARCTIC MONKEYSがいますが
(僕がTシャツを着ていたTHE KILLSもそうです)
ARCTICよりもTHE LAST SHADOW PUPETTSが
音的に好みという方には間違いなくストライクでしょう。

UK希望の星です!

<其ノ二>YELLE
Yelle1
Yelle2
Yelle3
木村カエラの元ネタです。
ステージ上での動きを見て
「カエラじゃん!」と心の中でツッコミました。
こちらが本物ですから無理もない話です。

THE TING TINGもそうなのですが
CDやビジュアルだけ見て
”かわいい”とだけ思うのは早合点です。
”かわいい”+”かっこいい”が正解です。

ライブを観れば一目瞭然なのですが
小洒落たカフェ仕様BGMというよりも
完全にフロア対応クラブミュージックです。
たしかに抜群のルックスとキュートな歌声が
「幸せマーチなマチコさん」的な女の子の
ハートをつかんでいるのは間違いないですが
ステージ上ではじけて踊り狂う彼女の姿は
自然に体を動かさずにはいられない魅力に
満ち溢れているので
Tシャツにスニーカーが無難です。

みんな楽しそうな顔して踊ってました。
ワンピースなマチコさんから
マキシムザホルモンTシャツ着たごつい兄ちゃんまで。
「踊らなきゃ」と意識的に踊るのではなく
無意識的に踊らされてしまうのがすごいところで
会場は完全にひとつになって盛り上がり
ラストまで拍手が鳴りやまずフロアが揺れました。
正直ここまですごいとは予想外でした。

CDだけで魅力のすべてが伝わるとは言い難いです。
それでもダフト・パンクやジャスティスなど
フランスのバキバキ音好きの耳も
十分満足させてくれるはずです。
興味ある方には歌詞(訳詞)が読める
国内盤CDの購入をおすすめします。
さすがフランス娘は一筋縄ではいかない
といった感じです。
remixが「kitsune Maison#5」にも収録されています。

YELLE前に演っていたperfumeを観終わって
ステージをすぐに出て行った大勢のお客さん
絶対人生損してまっせ。もったいないオバケ出ます。

<其ノ三>DOES IT OFFEND YOU,YEAH?
Does_it_offend_you_yeah
Does_it_offend_you_yeah2
僕がソフトバンクのお兄さんなら
間違いなく「ヨソウガイデス」と言っていたと思います。
CDが良くないとか期待していなかったわけではなく
CDの印象にライブの良さが上乗せされた度合いが
「ヨソウガイデス」でした。

わかりやすく言います。めっちゃかっこいいです。
同じ日に同じステージで観たHADOUKEN!と
風向きは近いと思うのですが
HADOUKEN!の洗練されたかっこよさに比べると
やや大味なワイルドさが魅力ではないでしょうか。

壊れたコンピュータで作られたような音が
ループするにつれてだんだんハイになってゆく
中毒性がハンパなかったです。

黒人(なのかな?)ボーカルのモーガンが
とにかくノセ上手で好感が持てるキャラだったのも
盛り上がった大きな要素のひとつでした。

このバンドのノリの良さのおかげで腰を痛めました。
まったく「ヨソウガイデス」。

<其ノ四>THE TING TINGS
The_ting_tings
The_ting_tings2
生きているとストレスが溜まって
たまには大声で叫びたくなるものです。
「アアアッアー」とか「ヘイッ!」って。
だから売れるべくして売れたのだと思います。

それで 実際叫ぶとなると
屋内より野外の方がスッキリして爽快感があり
当然気持ちがいいわけで
結果CDよりライブの方が良いのは
ごく当たり前のことです。

まわりくどい言い方をしましたが
そんなわけで充実感のあるライブでした。

ケイティにはかわいいの一言では説明しきれない
未知数の不思議な魅力を感じました。
たしかにルックスは良く
おしゃれ上級者さんの着こなしをしていて
見られる対象としての自覚はあるのだと思います。
ただそれ以上に額に汗かいて
ギターを掻き鳴らしながら踊り歌う姿を見て
音楽に取り組む姿勢の”本気度”を感じました。

「Shut up and let me go」の間奏でケイティが見せる
ギター→太鼓→パーカッションと忙しい
”ギャラはおんなじ”状態のパフォーマンスは
一見の価値ありです。

ロック側から支持されるポップユニットという意味で
THE TING TINGSは貴重な存在です。
私見ですがロックがポップソングを受け入れるのは
逆よりも相当ハードルが高いと思います。
その高いハードルを飛び越えてゆく武器として
一度耳にしたらこびりついて離れない
「アアアッアー」や「ヘイッ!」は
かなり強力で強烈な破壊力のポップ爆弾として
ロックのフィールドにボカスカ投げ込まれて
大爆発を起こしたわけです。

カイリー・ミノーグが現れたとき
ロックの世界からも評価が高かったのを
どこか思い出させてくれます。
ケイティがカイリーを尊敬しているというのは
個人的にとても興味深い事実です。

強烈な個性の持ち主は
時代のあだ花となる危険性と
背中合わせの関係にあると思います。
才能を信じて時代を突き抜けてくれることを
期待しています。

<其ノ五>SANTOGOLD
Santogold1
Santogold2
もう10年以上経つでしょうか。
BECKの初来日ライブで「LOSER」を観て
あまりの衝撃に口をポカーっと開けて
固まってしまったことがあったのですが
彼女を観てそれに近い状態に陥りました。
”ジャンルは何”とか”○○系”とか
何にもとらわれない とれわれようとしない
孤高の存在とも言える風格が漂っていました。

(僕も含めて)客が彼女のレベルに
ついて行けていない気がしました。
コーチェラなど有名フェスで客を沸かせ
ビョークやコールドプレイとツアーを回る
実力ある新人なのに・・・と思うと
何だか申し訳ない限りでした。
今でこそこうして冷静に振りかえっていますが
もちろんライブの最中はステージにくぎ付けで
我を忘れていました。

でもやっぱり上の4組とは
ちょっとニュアンスが違います。
上手く説明する言葉が見つかりません。
かろうじて感想を言おうとすると
「すごい」「ヤバい」
の3文字で終わってしまいます。

キャラが濃くて声にもクセがありますから
好みは大きく分かれると思います。
上手く言えませんが”キワモノ”好きな方は
ハマるかもしれません。
ビョークやBECKが登場した”キワモノ”感漂う
衝撃をもういちど味わえる可能性はあります。

日本でどれだけ売れるかはともかく
アメリカでは5年後くらいにアリーナクラスの
人気になっていても何ら不思議ではない
スケールの大きさだけは素人にもわかりました。
そんなすごいミュージシャンを
目の前で観る機会を与えてもらえただけで
頭が下がる思いです。



<1日目>
The_ting_tings2_2
THE TING TING

Vampire_weekend
VAMPIRE WEEKEND(音のみ)
MGMTへ移動中「A-punk」についヨダレが

Mgmt_top
MGMT
やっぱり変かっこいい

The_hoosiers
THE HOOSIERS(少しだけ)
ビリー・ジョエルのカヴァー面白すぎ

Crystal_castles1
Crystal_castles2
CRYSTAL CASTLES
・・・のはずが間に合わず

Does_it_offend_you_yeah2_2
DOES IT OFFEND YOU,YEAH?

Wagdug_futuristic_unity
WAGDUG FUTURISTIC UNITY
ダンスステージが爆音ステージに

Hadouken
Hadouken2
HADOUKEN!
観る側観られる側みんな飛び跳ねて最高!

Coldplay
COLDPLAY
クリスが変な人でツボにハマる(いけてないU2ボノ)

<2日目>
These_new_puritans2_2
THESE NEW PURITANS

Yelle1_2
YELLE

Santogold1_2
SANTOGOLD

The_kills
THE KILLS
KILLS以上プライマル未満

Panic_at_the_disco
PANIC AT THE DISCO
安心して観れる変態美メロバンド

The_verve
the verve
ベタだけど夕暮れ時の”あの曲”は良い

Gogo7188
GO!GO!7188(少しだけ)
不思議な和ロック

Paul_weller
PAUL WELLER
50前のおっさんが若者の心掴んでた!

Photo
詳細なレポート書けなくてすみません。









2008年8月4日月曜日

「スカイ・クロラ」

押井守の映画は
色素が薄く感情表現に乏しい女性と
俯瞰する目で物語全体を見守るただの犬ではない犬が
登場人物として描かれた時点で
個人的には及第点に到達してしまうのだが
本作はそのような評価を甘んじて受けることを拒むように
はるか高い次元へと飛び越えて行ってしまった。

「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」~「イノセンス」で
SFアニメ界のみならずハリウッド映画にまで
革命を起こした押井守が
今度は究極の恋愛アニメーション映画という領域で
金字塔を早くも打ち立てた。

こんなにクールで痛々しく
露出度が高くないのに官能的な恋愛アニメを
未だかつて観たことがない。
いや 仮に知らないだけで存在していたとしても
本作を上回るものでは決してないに違いない。
(この点において”エヴァ”の庵野秀明とは対照的な演出)

アニメなのに観後感がヨーロッパの恋愛映画に似ている。
フルヌードもモロなベッドシーンも無く情熱的でも無いが
「ベティー・ブルー」などが好きな人に好まれそうな気がした。

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カンナミユウイチ(加瀬亮)とクサナギスイト(菊池凛子)が
退屈そうにボウリングをしている。
クサナギはタバコを吹かしカンナミがレーンで投げる姿など
一切見ずに退屈そうにうつむいている。
クサナギがカンナミを飲みに誘い 薄暗いバーへと向かう。
クサナギとカンナミが戦争について議論を交わす。

酔いが回ったクサナギは洗面台で顔に水を浴びていると
毛皮を羽織り濃い化粧をした金髪女性と隣り合わせになる。
クサナギは金髪女性に口紅を借り 自分の唇を塗り始める。
席に戻ったクサナギには普段の化粧っ気の無さが嘘のような
女性的美しさが漂っている。

酔いつぶれたクサナギをカンナミは基地のガレージまで運ぶ。
突然クサナギの意識が冴え 手にピストルを携える。
2人は観たものの脳裏に焼きつくような印象的な会話を交わし
ピストル越しに手を握りしめながらキスをする。

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このワンシーンにはとても痺れた。
他にもクールでエロい描写が
随所に散りばめられていたせいもあり
クサナギという女性の魅力に
すっかり惹きこまれていってしまった。

他にもカンナミと関係を交わす
フーコという高級娼婦がとても魅力的。
胸元と背中一面にはタトゥーが施され 
どこか中性的妖艶さが漂う。
ピンク色のオープンカーに乗っていたこともあり
もしかすると若かりし頃の美輪明宏を
モチーフにしているのかもしれない。
(顔は少しGacktっぽい)
カンナミとベッド上で会話するフーコは
影がありとても美しかった。

ラストシーンの
(注:厳密に言えばエンドロール後にもうワンシーンある)
青空の下クサナギがタバコを吹かし
犬が空を見つめながら吠えるところで
高揚した気分を味わうことが出来た。
このシーンは実に素晴らしい。

脚本が”行定組”である事をスクリーン上で初めて知った。
脚本監修が行定勲で
脚本は”セカチュー”や「春の雪」を書いた
行定の愛弟子で小道具兼脚本家の伊藤ちひろ。
伊藤が本作のように感情を押し殺した
クールな本が書けるのは意外だった。
ここ最近の行定作品にファンとしては
物足りなさを感じていたせいもあり
本作は今後の”行定組”への期待を
持たせてくれるきっかけにもなった。

冒頭で本作を
”究極の恋愛アニメーション映画”
であると述べたが
もちろんそれだけの映画ではない。

平和な世の中で
ゲームとしての戦争を企業が請け負うという設定は
軍隊の人材派遣業というものが
実際に存在するアメリカが
利権をめぐって世界の警察官と化している
現代の比喩にも感じられる。
また(舞台がヨーロッパとはいえ)日本人が
金髪白人の人々を武装して守るというのは
日米安保体制を倒錯したものと言えなくもない。
いずれにせよ 
戦後の日本観が投影されている事は
まず間違いなさそうである。

加えて 
アニメやゲームに没頭する現代の若者に対し
啓蒙的な面も感じられる。
戦争に駆り出されるのは
戦闘機に乗る能力には長けているが
過去の記憶を抹消され
決して大人になれない若者たち。
戦火に散るとまた別の若者が
代替的に増員される。
そこに未来など見えなく 
ましてや夢も希望も存在しえない。
あたかもリセットボタンを押せば
何度でも再生可能なRPGや
反復を繰り返すマンネリ化したアニメに没頭する
若者を描いているかのよう。
それをアニメ界で神と崇められる
押井守が描くという構図が実に興味深い。

もっともアニメファン側からの本作に対する評価は
前作「イノセンス」ほど高くはないようだ。
だがざっと見た限りでは 
原作との相違点への不満 
背景設定の非現実性
メカニックデザインやCGに対してのオタク特有の品定め
声優を起用しなかった点に向けられた批判など
いずれも取るに足らない
あるいは的外れな言葉ばかりが見受けられる。

この映画でアニメ声優のプロを起用しなかったのは
監督の英断だったと思う。
プロのアニメ声優だと”いかにも”な感じが出てしまい
この映画が持つ
アニメというジャンルを超越した良さが
消えてしまうからだ。
菊池凛子は個人的には何故こんなに
評価が高い女優なのかよく解らない。
今回の声優も決して上手いとは思わなかったので
”何故評価が高い女優なのか”という答えは
今回も見つけられなかったが
普通っぽさが逆にリアルでプラスに転じていた。
加瀬亮に関してもほぼ同様に思えた。
役者のときのようなキレが無いのが逆に良い。
(ただし谷原章介と栗山千明は
雰囲気を壊さない範囲内で上手だと思った)
普通っぽさの中にクールさを醸し出せたのが
大きな成功要因につながっていた。

押井作品としては珍しく
話が比較的シンプルでわかりやすい。
とはいえ 
取り上げなかった登場人物の設定や
セリフのひとつひとつにも
印象的なものが多く 
1度観ただけでは全貌を掴み切れない。
公式ガイドブック 
背景設定集
「押井守『スカイ・クロラ』論」など
関連書籍を手当たり次第読み
予習した上で再度観て
最後にもういちどおさらいを兼ねて観たいと思う。

全体を振り返ってみると
「大人になれない若者」が未来のない絶望に
死を背負いながら生きながらも
愛によって感情が揺さぶられる様を
感情を込めずに淡々と描いているところが
美しい恋愛映画だという印象が強く残った。

戦闘機による戦争映画なのに
戦闘機のせの字も語らなかったが
多分そういうことなのではなかろうか。