2008年11月8日土曜日

Speakers「デザインする身体」vol.1 minä perhonen 皆川明

minä perhonenのデザイナー皆川明さんを講師に招いた
ワークショップに参加してきました。

開始30分前に会場に着いたにもかかわらず
立っている方が大勢いて
「有料なのに立ち見はちょっと・・・」という気持ちもあって
スタッフの方に尋ねたところ 前方に若干空席があるとのこと。
急いで前方に駆け込んでみると 一席だけ空いていました。
空いているのにはそれなりの理由がありまして
皆川さんが座るであろう椅子と向かい合わせの最前列だったからです。
会場は8割女性で 少なからずブランドのファンと思われる方々。
そんな中 全身アンダーカバーで身をまとった男性が
皆川さんと紅茶の冷めない距離で見つめ合いながら話を聴いて
果たして良いのだろうか?と自問自答・・・など全くせず
何のためらいもなく堂々と座らせてもらうことにしました。

実はこのワークショップ 主催者が以前勤めていた会社の元先輩。
しかも内定をもらったあと1回目の食事会で
向かい合わせでスープの冷めない距離で本当にスープをすすりながら
話をさせてもらった個人的に印象に残っている先輩だったから驚き。
(その食事会は内定者の学生と同じ大学出身の先輩が向かい合わせで
 座るという席次だったが 僕と同じ出身大学の先輩が居なかった為
 別だが同じ京都にある大学出身のその先輩が僕と向かい合わせに
 座った)
久しぶりにお見かけしましたが 見た目がすっかり変わっていてビックリ。
いかにも文化人的な知的風貌に洗練されていました。

見た目といえば 皆川さん。
僕は皆川さんの服や柄はもちろん知っていましたが
皆川さんご本人の姿を写真で見たことがありませんでした。
ナチュラルでかわいらしくフェミニンな絵柄から
鎖骨をグーで殴れば全身の骨が崩れてしまいそうな
線が細く華奢な男性だと勝手に思い込んでいました。

でも実像は 昭和の男 みたいな感じでこれまたビックリ。
それなりにがっしりして体脂肪率低そうな筋肉質の体に
角刈りとスポーツ刈りをさまようような髪型と味のある顔。
デザイナーというよりは職人っぽさがにじみ出たルックスでした。
後に話に出たのですが 皆川さんはブランド立ち上げの頃
アパレルだけでは食えないので魚市場でも働いていたらしいです。
そう言われると実に説得力のある顔をしているなとしみじみ。

さて肝心の内容ですが
インテリア ファブリック 服 デザイン論 
現在のファッション業界との接し方など
内容盛りだくさんなので全部書くのはかなりしんどいです。

なので あえてminäっぽくない作品3点の紹介と
いちばん印象に残った皆川さんの言葉を書くことにします。

まずは「fujisans」という柄
Fujisans
この作品は"既成概念の側面を見せる"というテーマで
誰もが知っている富士山を違った側面から描くことに主眼を置き
その違った側面を見せるためにデザインが必要だという
思いが込められているそうです。
ちなみに水色のボーダー1色で描かれているのは
水色ボーダー1色で描くという縛りを皆川さん自ら設定して
その制約の中から生まれるクリエイションがどんなものになるかを
実験したとか。

次に「neighborhood」
Neighborhood
隣に住む人と挨拶もしない一方 
ネットで世界中のことを知ることが出来る世の中。
そんなコミュニケーションが薄っぺらくなった現代に対し
身近に居るものたちのふれあいという観点から
問いかけをしています。
人だけではなく動物もいるあたりも
おそらくポイントのひとつなのでしょう。

最後に「oasis」
Oasis
中央のちょっととぼけた馬の頭の上に鳥が止まっていて
たくさんの馬たちがその馬のもとに集まっています。
とぼけた馬は自分が注目の的になっていると思っていますが
集まった目的はその馬ではなく鳥だ というストーリー。
この作品はminä10周年のタイミングで創られたもので
ブランドの知名度に頼るのではなく
作品の本質を見てもらえという
minä社員に対する戒めの意味も
裏テーマとして込められているそうです。


皆川さんのお話は信念という一本の筋が通っていて
刺激を受ける言葉がたくさんありましたが
僕がいちばん心に残ったのが
「未来への郷愁」というキーワードです。
「郷愁」は過去に思いを馳せることですから
一見矛盾しているように思えますが
皆川さんはそうではないとおっしゃっていました。
作品は基本的に「未来」を表現しているものだが
その「未来」であるはずの作品を見ていると
ふとどこか懐かしい気持ちにさせられることで
人間が持つ根源的なものを表現したいというのが
「未来への郷愁」だそうです。
この言葉と解説は生で聴いていてかなり興奮しました。

以前から薄々感じてはいましたが
シーズン毎の流行やヒットアイテムがあり
売れ筋をいかに素早く売り逃しなく消費者に提供するかという
アパレルの主流をなす流れとは全くかけ離れた
独自の道を歩んでいるのは
皆川さんのデザインに対する姿勢や考え方によるもの
ということが実によくわかりました。

最後に質問タイムがあり
せっかくの機会なので皆川さんに質問しました。

皆川さんの話の中で 
夜中に絵を描く作業をしていてそのまま寝てしまい
夢を見ながらその絵の上に違う絵を描いて
作業が台無しになったというエピソードがありました。
僕はその話が面白くて無性に気になったので

①夢を見ながら描いた絵は普段の作風と
  似ていましたか違うものでしたか

②普段夢を見ることは作品に
 何かしら反映されていますか

というふたつの質問をしました。
皆川さんと紅茶の冷めない距離で見つめ合いながら。
緊張しまくり 心臓が半分以上僕の口から出ていたと思います。

皆川さんの答えは
「寝ながら描いた絵は 線のような落書きでした」

さらに恥ずかしくなって 心臓がほぼ全部出てしまいました。

しかも一番聞きたかった②の質問は
僕が緊張していた為上手く伝わらなかったのか
本質を突く質問でなかったからか
いずれにせよスルーされてしまい
「折れるのは肉体よりも精神の方が先ですね」
とおっしゃったあと
「質問に上手く答えられませんでしたがそんな感じです」
と締めくくられてしまいました。

救いだったのが①の質問はウケて
会場に笑いが起こりました。

デザインの本質を突く質問が出来なかった事よりも
ウケたことに満足感を得て家路に就いた自分が
我ながら情けないです。