2013年3月13日水曜日

「暗殺の森」

とにかく、絵画のように美しい。

そこそこ映画好きという自負はありながらも初観賞。巨匠の最高傑作とも言われる本作をスルーしてしまっていたのは、
(ほぼリアルタイムに「ラスト・エンペラー」等の近作を観たイメージから)嫌いではないもののベルトリッチにはいまいちハマれない何か重々しい感じが邪魔していたからだ。

光の使い方が天才的。
列車のガラス越しに遷ろう太陽はエロティックな美しさを醸し出す隠喩となり、ブラインド越しに差し込む光は調度品ひとつひとつに至るまで気品を与えている。

「ここは美術館じゃないのよ」というセリフに「はなればなれに」ルーブルを闊歩する3人を連想するくらい、映像にはゴダール好きを表層的に感じてしまう。
色は違えど「気狂いピエロ」を匂わせるシーンもあり、部屋の色に見覚えのある原色の青が強調されているのもとても印象的だ。

撮影監督のヴィットリオ・ストラーロについては詳しく知らなかったが、
ほぼ同時期(1969年。「暗殺の森」は1970年)にダリオ・アルジェントの監督デビュー作「歓びの毒牙」も撮っている。
原作をもともとベルトリッチが映画化のアイデアを温めていたのを最終的にアルジェントに託した、というエピソードがもし本当であれば驚きだ。
(さらに、彼は「地獄の黙示録」も撮っている。「地獄の黙示録」と「気狂いピエロ」は...とか考えるといよいよ頭がおかしくなりそうだ)

なぜ、今、このタイミングで?旬でいえばフランシス・ベーコンつながりで「ラスト・タンゴ・イン・パリ」だろ!というツッコミに対しては、
これの恩恵以外の何者でもないと答えておこう。
いやでもこれは近々ブルーレイかDVDで買い直したいと思えるくらいに素晴らしい!












2013年3月12日火曜日

「脳男」

主人公「脳男」の生きざまを象徴するかのようにカラヴァッジョが引用されていて、すぐさまメランコリア」を思い出した。
キルスティン・ダンストが不安定な情緒に導かれるようにバウハウス系抽象絵画をカラヴァッジョに掛け替える、とても印象的なシーン。
その後彼女が辿り着いたあの境地と、「脳男」の登場人物それぞれの根底にある感情/無感情は、はたして似ているのか違うのか。


あと気になったのは、「脳男」とともに物語の核心部分を形づくってゆく女性精神科医の机の上に、
比較的目立つように置かれていた『逆抵抗 心理療法家のつまずきとその解決とい本。
調べたところ、治療する側の無意識のバイアスが治療される側にマイナスの影響を与える(「逆抵抗」)可能性があることについて書かれているらしい。
鑑賞後にこの「逆抵抗」という存在を知れたのは、この映画を振り返る上でとても有意義だった。


人は多くの「真実」と思って疑わないバイアスを一生疑わないまま生きていて、
「『真実』という仮面をかぶった自覚がないという偏りがある」純粋さは人生にドラマを生みだしているのかもしれない。