2007年2月26日月曜日

Kahimi Karie at同志社大学

クラシックコンサート風の舞台と

規則正しく番号が刻まれた座席を目にし

立って観るべきか座って聴くべきか

究極の選択に迫られる。

だが悩んだのも馬鹿馬鹿しい位に

カヒミが登場すると空気が変わった。

明らかに 座って聴くべし オーラだった。


演奏が始まって音のみずみずしさに驚く。

大友良英の鉄臭くソリッドなギター音と

ウッドベースやハープの音が

同列に並んでカヒミの声の下地をつくる。

加えて 音そのものがはっきりクリアに聞こえる。

カヒミがペットボトルのフタを開ける音まで。

その時 もしや と思ったが

カヒミのMCで事実であることがわかった。

エンジニアでZAKが参加していたからである。


とはいえ カヒミファンじゃなければ

結構辛い内容だったことも認める。

音が良い意味で心地よく温かい感じなので

曲に集中しなければ眠くなる雰囲気だった。

実際カヒミもMCで「東京で1/3くらい寝ていた」と

どう解釈してよいのかわからないコメントを

していたくらいだ。

しかし裏を返せば その温かい心地よさに

波長が合えば

今目の前で創り上げられているものが

いかに美しいものであるかを知り

五感を働かせて空間にある全てを感じたくなる

質の高さだった。


アルバム「NUNKI」をそのまま曲順通りに

演奏していたら つまらなかったかもしれない。

だが予想以上にライブアレンジがかっこいいのと

往年のファンには懐かしい「DAVID HAMILTON」や

(この曲のライブアレンジは最高だった!)

カヒミ自ら「好きな曲」と断言する「kinski」などを

随所に散りばめる工夫が功を奏した。


カバー曲2曲には驚かされた。

まずはバカラック。

バカラックといえば渋谷系最重要人物というべき

シンガーソングライターだが

今のカヒミがバカラックを演奏するのは意外だった。

渋谷系時代には洋服のような存在だったバカラックが

今やカヒミの体液と化している証拠なのかもしれない。

ずっとカヒミを聴いてきて良かった と思えた。

(とはいえアレンジを民族音楽風にするなど一筋縄ではいかないのが凄いところ。)

もう1曲ははっぴいえんどの「風来坊」。

しばし動揺を隠せなかったが

全くカヒミ色の無いこのような曲をカバー出来るのは

カヒミ自身のオリジナリティが確立された所以であり

大人の余裕を感じた。

(この曲は細野晴臣のトリビュートアルバムに収録されるらしい。)


カヒミはONJOや菊池成孔のライブで場数を踏んで

ライブを楽しめるようになったと言っていた。

失礼な言い方かもしれないが

たしかに歌の表現力が年々向上している気がした。

本人がライブを楽しんでいたせいか

MCで「次が最後の曲です」と言ったあと

お客さんが無言でシーンとしていたのに驚いたらしく

カヒミがいきなり吹き出して笑った。

恐らくカヒミ本人のリラックス度と

観客のカヒミを神聖なものとして見る眼差しとのズレが

ちょっとしたハプニングを生んだに違いない。


「trapeziste」ツアーから3年以上経つ。

前回のツアーがイリュージョン的な音と演出で彩られた

人工的なものであったのに対し 

今回はミニマムかつナチュラルな雰囲気だった。

アンコール前の最後の曲「You are here for a light」は

地平線から太陽の光が徐々に差し込むような情景を連想させ

あたかも遠い世界にトリップした僕たちを

現実の世界に引き戻してくれるような

素敵な1時間半を象徴する曲であった。 




2007年2月13日火曜日

「エコール」

「カルネ」「カノン」「アレックス」で

パリの汚くてアンダーグラウンドな一面をフォーカスし

その焦点に潜むわずかな純粋さに救いを求める映画監督

ギャスパー・ノエの公私にわたるパートナー

ルシール・アザリロヴィック初の長編映画。

(注:上記のギャスパー評は僕の勝手な解釈なので

 異論のある方にはあらかじめお詫びします。

 ついでに言えば「カルネ」と「カノン」は大好きですが

 「アレックス」だけは苦手です。

 良さがわかりません。)


結論を急げば ギャスパーの映画より好き。

背景だけ簡単に触れておくと

外界から遮断された森に陰鬱とした建物がそびえる。

そこは6歳から12歳までの少女だけが学ぶ学校で

厳しい規則に従い 生物やダンスのレッスンが

日夜繰り広げられる。

新入生は毎回棺桶に入れられて運ばれて来るのだが

同様にしてイリスというひとりの少女が

運ばれて来たところから

物語は始まる。


察した方もいるかと思うが

内容は究極のロリータ映画だ。

ギャスパーの映画では血(生理)や性行為によって

エロスが直接的に描かれているが

ルシールは逆に 

徹底的に無垢な少女の純真さにこだわることによって

寓話的なエロティシズムを表現するのに

成功している。


少女たちは皆オーディションで選ばれたそうだが

とにかく主役のイリスが何とも言えずかわいい。

決して美少女過ぎず 

歯も発育途中でところどころ抜けている。

そしてカメラの前で愛くるしい表情や不安に満ちた目

上級生にいじめられて泣き叫んだりする

そのひとつひとつがいとおしい。

キューンと来る。


そのイリスの良き世話役であり

大の仲良しである最上級生ビアンカが

学校を卒業するところで

物語は終わる。

学校の外にある世界とはどんなところか

自由となったビアンカはどう生きるのか

エンディングまで目が離せなかった。

ラストは案外 予想したものに近かったが

逆に予想通りでホッとした気分になれた。



とにかく 美しい!