2011年7月24日日曜日

森山大道写真展「オン・ザ・ロード」

関西では初の大々的な回顧展

なかでも、99点のカラー写真≪東京≫が展示された空間には、とてもヒリヒリさせられた。

"日常がこんなにも猥雑なものであるとは驚きである"という趣旨の感想を事前に多く見受けた通り、
たとえば走り去る電車など性的な何かを直接撮らなくとも他の作品との連関によって
何かしら想像を掻き立てるような展示の構成の妙も手伝い、
日常における99の、あるいは1つ、もしくは無限大の「猥雑」がうごめいているように見える。

60年代の新宿をはじめとする過去のモノクロ作品における被写体の面白さは圧倒的に"人"であり、
比較的簡素なホテルの看板や広告など"モノ"は"人"ありきで惹き立つような印象が強いのに対して、
≪東京≫のカラー写真においては、どこか、風俗の看板など"モノ"のインパクトが強烈で、
"人"は"モノ"を前提として成り立っているような印象をどうしても抱いてしまう。

≪東京≫における"モノ"は、知覚過敏の歯茎のように消費社会でうっ血し腫れあがりつつも、
その視覚的インパクトからは最早消費から距離を置かれた寒々しさや滑稽さが漂い、
唐突に街に並べられたオブジェのようにそびえている。
だが、不思議なことに、欲望を狩り取れぬまま過剰に暴走し孤立したはずの"モノ"の姿が、
欲望の主である"人"の姿と相性良く収まっているようにも見える。

そしてこの、"人"が"モノ"に少し背を向けながらも街の光景がリアルな日常として成立たらしめるものこそ、
「猥雑」なのかもしれない、とも思えた。
街のそこかしこからひっそりと見え隠れする"人"のうごめく欲望の有様と、
欲望の矛先とならず立ちつくした"モノ"との距離が、
交わらないことによって違和感なく共存する不自然さが、とても「猥雑」で面白い。

そう、面白い。
こんな不思議な時代に生まれたことを積極的に楽しむべきなのだ、と。