僕が1968年に生きていなかった事を唯一悔やむのは
原作 江戸川乱歩 脚本 三島由紀夫
監督 深作欣二 主演 美輪明宏 のこの映画を
リアルタイムで体験出来なかった事だけだ。
深作は黒蜥蜴(美輪)をいかにして撮れば
妖艶にスクリーンに映るかを知っている
唯一の理解者であり
乱歩×三島という化学反応は
明智小五郎と黒蜥蜴を
恋愛悲劇のヒーロとヒロインに変化させた。
黒蜥蜴は執拗に迫り犯罪を暴こうとする明智を恐れ
逃れようもなく追い詰める明智を愛した。
明智に見つかりたくないが 会いたいという
矛盾した感情に引き裂かれる。
明智は陰鬱そうな表情で黒蜥蜴を淡々と追い詰めながらも
いつしかその妖艶な魅力にとりつかれる。
そして明智と黒蜥蜴は
知略を尽くした戦いの舞台へ上がることになる。
明智は戦いに勝った。
だが考えようによっては
明智の脳裏に忘れられない爪痕を残した黒蜥蜴こそ
真の勝利者なのかも知れない。
滋賀県にある小さな映画館で上映後に起こった拍手は
物語のクールなたたずまいとは対照的に
とても暖かなものであった。