2007年5月23日水曜日

「黒蜥蜴」

僕が1968年に生きていなかった事を唯一悔やむのは

原作 江戸川乱歩 脚本 三島由紀夫

監督 深作欣二  主演 美輪明宏 のこの映画を

リアルタイムで体験出来なかった事だけだ。


深作は黒蜥蜴(美輪)をいかにして撮れば

妖艶にスクリーンに映るかを知っている

唯一の理解者であり

乱歩×三島という化学反応は

明智小五郎と黒蜥蜴を

恋愛悲劇のヒーロとヒロインに変化させた。


黒蜥蜴は執拗に迫り犯罪を暴こうとする明智を恐れ

逃れようもなく追い詰める明智を愛した。

明智に見つかりたくないが 会いたいという

矛盾した感情に引き裂かれる。


明智は陰鬱そうな表情で黒蜥蜴を淡々と追い詰めながらも

いつしかその妖艶な魅力にとりつかれる。


そして明智と黒蜥蜴は

知略を尽くした戦いの舞台へ上がることになる。

明智は戦いに勝った。

だが考えようによっては

明智の脳裏に忘れられない爪痕を残した黒蜥蜴こそ

真の勝利者なのかも知れない。


滋賀県にある小さな映画館で上映後に起こった拍手は

物語のクールなたたずまいとは対照的に

とても暖かなものであった。