2008年4月8日火曜日

「フローズン・タイム」

美の根源が女性であり
それが恋愛を経験することによって
時間の概念が形成されてゆくという着想に
大いなる共感を抱く作品だ。
なぜなら 僕がそうであるから。

いたるところで評判になっている
雪の夜のラストシーンはたしかに美しい。
うがった見方をすれば
このラストシーンから逆算して
ストーリーを構築していった感も否めないが
たとえそうであっても それはマイナスには感じない。

全体的にポップに描かれているのが小気味良い。
ハリウッド的に劇画調でなく
フランス映画的に情熱的でなく
イギリス映画というジャンルが存在するとすれば
こういうポップな描写を指すのかも知れない。

加えて 登場人物がコミカルというかアホだ。
結局イギリスの若者って
サッカーとセックスだけを生き甲斐にしているのかと
偏見を持つくらいに。
当然 ストーリーもシリアスでなくいたってコミカル。
アホの子はアホ。

監督はファッション・フォトグラファー出身だけあって
男性が女性の被写体を撮る目線で語られていると感じたが
写真はともかく映画としてこういう男性目線で描かれる女性像を
女性はどう評価するのかは興味深いところ。

「時間を”フリーズ”させる」ことが出来る主人公について
束芋がパンフレットで
「主人公の彼が持つ”時間をフリーズさせる能力”は私も持っている。
 一瞬を切り出してその時間の断面を描いてゆく感覚・・・」
とコメントしている。
さすが芸術家はスゴイな と
同じ感覚を共有できえない己の凡人さが歯がゆい。









2008年4月6日日曜日

「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」

たとえば今が見ごろの桜を見て

「桜がきれいだな」と言ったとします。

でもそのとき

「どこがどうきれいなのか具体的に説明しなさい!」

と問い詰められて 仕方なく渋々説明すると

「あなたの発言には一貫性がなく矛盾している!」

と否定されて殺される。

例えるなら そんな映画です。

しかもそれが実話なのですから恐ろしい話です。


論理が全てを支配し感性を服従させてしまう状態が

結局論理そのものをも逸脱させ 

暴力によってしか正当化をなしえない結末に至るのは

とても恐ろしい事だと思いました。


「革命」とやらのために振りかざされた論理は

現代の(というか僕の)目から見ると滑稽極まりなくて


(記憶が曖昧なので正確な言い回しは忘れましたが)


「軍事演習において水分が不足することが予測できながら

 水筒を用意しなかった点について総括せよ!」


とか


「銃に傷をつけてしまうという行為は革命を後退させる。

 これをどう総括するのか!」


とか その他些細なことが「総括」の対象となるのです。

はっきり言って笑いました。馬鹿馬鹿しくて。


おそらくこの文章を読んで

「『総括』ってどういう意味?」と

思われたことでしょう。

わからないです。映画を観た僕でさえも。


でもそんな些細な事が引き金となって

「総括」を強要され

最終的には「処刑」と称して殺されてしまうから堪りません。


また男女間の色恋沙汰も「総括」の対象とされ

命取りになるのですが

何故かリーダー格の「森」と「永田」が付き合うのは

「革命のために必要」として自己肯定されてしまうのです。

わけがわかりません。


わけがわからないなりにざっくりまとめると


「革命」の名の下に集った青年たちが

自己を打ち消しながら日々厳しくなる規律と葛藤し

やがては同志をあやめるに至り

日に日に人数が減ってゆき

厳しい規律を課すリーダー格の「森」と「永田」が

逮捕されると

求心力を失った残党の5人が

あさま山荘に立て籠もり

「革命」と情との間で心が揺れ

犠牲となった同志の血を大義名分にして

最後まで警察に徹底抗戦する


というような話です。


1%たりとも共感に値しない話でした。

そんなに同志が大事なら

何故粛清しなければならなかったのか?

端から見ると矛盾しているように思えてなりません。


恐らく

そのような矛盾を抱えながらも

「革命」によって「共産主義」が実現すれば

日本いや世界は

平和で平等な理想的なものになると

青年たちは真剣に信じていたことだけは

事実なのだと思います。


現代を生きる僕たちにとって

この事実は過去の出来事であり

歴史の1ページとして認識する

それだけで十分なのだと思います。

連合赤軍のとった行動は愚かだったと

笑い飛ばせばいい。


ただ

ベルリンの壁が崩壊して喜んだはずが

世界は一向に平和にならず

争いはむしろ複雑化しているという事実は

僕たちの世代が抱える大きな課題であって

それを思うと

僕たちは何をよりどころにすべきなのか

どこへ向かえばよいのか

そういった疑問を投げかけている映画だと

言えなくもないと思います。


個人的には興味のあるテーマでもあり

この映画を製作するための支援をお願いするチラシを

数年前から映画館で目にしていたので

このように映画化が実現し映画館が満席だったのは

映画好きとしては感慨深いことではあります。

若松孝二の映画人としての集大成となる作品でしょう。



だからといって

誰彼構わずお薦めするには

3時間10分はあまりにも長過ぎで内容も苦痛だと思います。

無茶な言い方をすれば


前半:政治ドキュメンタリー

中盤:ホラー映画(「永田」が殺人鬼に見える)

後半:ガン・アクション映画


と割り切って楽しむ手もなくはないですが

お金払ってまでそうするのも意味があるとは思えません。


あさま山荘事件だけ少し知りたいなら

「突入せよ!あさま山荘」は警察の側から描かれていて

わかりやすいです。

連合赤軍の内部崩壊の過程は

「光の雨」でも詳しく知ることが出来ます。

(ただし「光の雨」の方が映像的にはもっと残酷です)


あさま山荘事件のリーダー「坂口」役の

ARATAに少し触れておくと

不謹慎な言い方かも知れませんが

かっこ良く見えてしまいました。

実際の「坂口」という人物がどうであったかは

よく知らないので言及できませんが

ARATAの容姿端麗でスタイルの良いルックスが

マフラーひとつ巻いてもおしゃれに見えてしまい

ひときわ目立っていました。

ARATAがかっこ良く見えることが

この映画にとってプラスなのかマイナスなのかは

よくわかりませんが

作品の本質とは別の次元の話なので

深く考えてもあまり意味はないと思われます。

映画の内容に関心はないが

ARATAは好きという方なら

DVD化された際にレンタルして

後半1時間だけ観れば十分のような気がします。


ARATAよりも「遠山」役の坂井真紀の方が

映画のテーマ的には重要な役割を演じています。

おそらく彼女の女優人生の中で

ベストと思われるほどの熱演ぶりです。

彼女の演技に連合赤軍の抱える矛盾の多くが

凝縮され描かれています。

ただし ファンの方は観るのにちょっと勇気を要するでしょう。


繰り返しますが

個人的には3時間10分息の抜けない内容でしたが

興味のない方にあまりお薦めはしません。