おそらく、犯人がわからない奇怪な事件が生む疑心暗鬼と、
ドイツが抱えてきた戦争という暗く深い闇を、重ねて描いているのだと思います。
後者については、僕は日本人でありヨーロッパに生まれ育ったわけではない分、
憶測の域をぬぐえないのは確かです。
しかしながら、こういった歴史的背景云々を抜きに観ても余りある観客を打つ強さが、
十分に詰まった作品だと思います。
断続的に出てくるサディスティックな描写を目の当たりにして込み上げてくる、居心地の悪さ。
これをどこへどう逃がせば心が落ち着くものか、最後までわからぬままでした。
これがもし監督の意図に含まれているならば相当タチが悪いですが、
ハネケだけに、十分ありえます。
観る側のこちらも、いつの間にかモラルを逸脱し映画の世界に惹き込まれていたことを、
正直に告げなければなりません。
実際、一番好きなシーンは、ドクターとその娘が夜中にふたりきりで部屋に居たのを目撃された場面でした。
そして、子供達が讃美歌をうたうシーンは、本当に美しかった。
この情景が何かを暗示している、あるいは、それを抜きにして考えたとしても。