2009年7月10日金曜日

トゥルゲーネフ 『初恋』

16歳の少年ウラジミールが
21歳のジナイーダという貧しくも心の気高い伯爵令嬢に
もてあそばれていながら恋心は止められずにいたが
ジナイーダが見知らぬ誰かに恋をしていることを知り
ウラジミールを子供であること友達であることを強調しはじめると
自分が大人の女性にとっては子供であるということを知ることで
ウラジミールは次第に大人へと成長してゆく

だけではなく

伏線が比較的わかりやすいため 
ウラジミールの恋敵が誰なのか?という点は話のキモではなく
恋敵の正体が誰であるかを気になりながらも
ウラジミールの恋心は鎮まるどころか
ますます "新たな勢いで燃え上がった"

だけではなく

恋敵の正体を知ってしまったウラジミールは
"脳みそを半分抜き取られたウサギのような目" をしていたが
その後ジナイーダと
"そんな感情は二度と経験したく"はないが
"もし一生に一度も経験出来ないとしたら" "自分のことを不幸だと思う"
"甘さをむさぼるように味わう"ことになる

だけではなく

ジナイーダの"一生" "記憶に刻み込まれた" "思いがけない姿"を見て
ウラジミールは恋が愛に敗北することを知り 
心の底から大人になった実感を味わう

だけではなく


ウラジミールが"ある貧しいお婆さん"へと投げかける
ジナイーダへの初恋に対する祈るような想い
それは 初恋の呪縛から解放されたか否かわからぬままではありながらも
ジナイーダが放つ魅力と惹きこまれてゆくウラジミールの心との関係を
否定するものではなく
ウラジミールの恋は愛に敗北してもなお
愛よりも恋に肩入れして肯定したくなるくらい甘く美しいと思った

だけです

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"光文社古典新訳文庫" を読んだのは初めてです

予想以上に読みやすく また(これが一番重要ですが)面白く読めました

(ちなみに既訳は "ツルゲーネフ「はつ恋」" という表記だったと思います)

既訳ファンから新訳は軽いだ何だと とかく非難を浴びやすいですが

僕はそれなりの人が面白い作品を面白いと思い訳したものは面白いはずだ

と思っています